ヨシュア・キミッヒは、現代サッカーにおいて最も知性的な選手の一人として知られている。彼の主なポジションは守備的ミッドフィールダーや右サイドバックだが、場合によってはセンターバックとしてもプレー可能であり、複数のポジションでワールドクラスのパフォーマンスを発揮できる。この記事ではそんなキミッヒについて紹介していきたい。
基本情報・成績
生年月日 | 1995/02/08 |
国籍 | ドイツ |
身長 | 177cm |
ポジション | DF/MF |
利き足 | 右 |
キャリア初期
キミッヒはVfBシュトゥットガルトのユースアカデミーで育成され、2007年にRBライプツィヒに移籍した。ライプツィヒでは2013年にトップチームデビューを果たし、2シーズンでリーグ戦53試合に出場して3ゴール・4アシストを記録。この期間中、彼は主に守備的ミッドフィールダーとしてプレーし、その高い戦術理解と安定したパフォーマンスで頭角を現した。
バイエルンへの移籍と成功
2015年7月、キミッヒはバイエルン・ミュンヘンと契約し、推定700万ユーロの移籍金で加入した。当初はフィリップ・ラームのバックアップとしての役割が期待されていたが、すぐにペップ・グアルディオラ監督の下で多くのポジションをこなす万能な選手として台頭。2016年5月には、DFBポカール決勝で120分間フル出場し、チームの優勝に貢献した。翌シーズンはラームの引退により、彼は右サイドバックとしてレギュラーに定着。今日に至るまで、主力としてチームに貢献し続けている。
キミッヒの真価が最も発揮されたシーズンの一例としては、バイエルン・ミュンヘンがUEFAチャンピオンズリーグ、ブンデスリーガ、DFBポカールのトレブル(3冠)を達成した2019-2020シーズンが挙げられるだろう。彼は、累積警告による出場停止(1試合)を除く全ての試合に出場し、全公式戦51試合で7ゴール・17アシストを記録。チャンピオンズリーグ決勝ではキングスレイ・コマンの優勝決定弾をアシストするなど、大一番での活躍が目立った。
ドイツ代表としての活躍
キミッヒはドイツ代表でも長らく欠かせない存在となっている。2016年のUEFA欧州選手権直前に初めてフル代表に選出された彼は、同大会中に早くもレギュラーに定着。ドイツ代表は準決勝に進出し、キミッヒは大会のベストイレブンに選ばれた。その後も欧州選手権、ワールドカップといった近年の主要大会には必ず名を連ねており、2024年にはドイツ代表のキャプテンに任命されている。
プレースタイル
ここからは、キミッヒのプレースタイルについて詳しく見ていきたい。彼のプレースタイルは、主に卓越した技術と知性、そして戦術的理解能力によって形成されており、攻守両面での貢献が非常に大きいものとなっている。
戦術的柔軟性と知性
キミッヒの最大の強みは、その戦術的な柔軟性とサッカーにおける知性である。彼はどのポジションでも試合の流れを読み取り、適切なプレーを選択することが可能だ。かつてペップ・グアルディオラが「キミッヒはすべてを持っている」と評したことからも分かるように、キミッヒはチームのオーガナイザーとして攻守のあらゆる役割をこなすことができる。
キミッヒの知性は、特にビルドアップの局面、すなわち相手の動きを予測しながら攻撃の起点となる場面で発揮されやすい。彼は相手がどこでプレスをかけてくるか、どこにスペースがあるかを瞬時に判断し、正確なポジショニングとパスでボールを前進させる。また、試合中の状況に応じて自らが攻撃に参加することもあり、それによって重要なゴールやアシストを決めることが可能だ。
それでは具体的に、キミッヒは各ポジションでどのような役割を担っている(担ってきた)のか。以下ではその詳細を見ていく。
守備的ミッドフィールダーとしての役割
キミッヒの守備的ミッドフィールダーとしての役割は、主にチームのビルドアップと守備のバランスを取ることにある。彼はボールを受ける位置取りが非常に優れており、時にはセンターバックの間に下がってボールを受け、全体のビルドアップを指揮。こうしたポジションにおいて、彼はピッチ全体を俯瞰できるため、正確なパスでチームメイトにボールを供給することが可能だ。その際には短いパスだけでなく、長いパスでもゲームを展開できるため、相手のプレスを回避しつつスムーズに攻撃を組み立てることができる。
また、守備面でもキミッヒのインテリジェンスは際立っている。先述した通り彼はポジショニングセンスが優れており、守備時においても相手の攻撃を予測して適切な位置にいることで、相手の前進を効果的に阻むのだ。
ただし、身体能力はハイレベルとはいえないため、守備範囲の広さが求められる戦術においてだと、彼の守備的な貢献は限定されてしまう。また、同様に身体能力面での制約から、周囲に適切なパスコースがない場合、相手のハイレベルなプレスには捕まってしまう状況も少なくない。したがってキミッヒの真価を引き出すには、攻守においてコンパクトかつコレクティブな組織が求められるだろう。
右サイドバックとしてのプレー
キミッヒは右サイドバックとしても非常に優秀であり、攻守にわたって多大な貢献をしている。攻撃時には、右サイドを駆け上がり、オーバーラップすることでサイドの攻撃に厚みを持たせる。彼のクロスは正確で、これまでロベルト・レヴァンドフスキやトーマス・ミュラーなどといった優秀なアタッカー陣へのボール供給で数多くのアシストを記録してきた。また、守備時には自陣に素早く戻り、堅実なディフェンスを実行する。
さらに、先述の通りキミッヒはチーム戦術に応じてポジションを変える柔軟性を持っている。例えば左サイドバックのアルフォンソ・デイヴィスが攻撃的にプレーする際には、キミッヒが最終ラインをカバーし、3バックを形成して全体のバランスを取るといった形だ。このように、彼はサイドバック起用時においても持ち前の判断力を活かし、試合状況に応じてチームを的確にサポートする。
センターバックとしての起用
キミッヒは主にペップ・グアルディオラ監督の下、センターバックとしてプレーした経験も持つ。通常、センターバックはフィジカルの強さや高さが求められるが、キミッヒはそれらの不足を技術力と判断スピード、そして知性でカバーした。ペップのチームでは、相手のプレスを受けながらも正確なパスで前方につなげるCBが重要であったが、キミッヒは正にそうした役割にうってつけだ。センターバックとしてのプレーにおいても、キミッヒのビルドアップ能力は大きな武器となっていた。
また、守備面でも彼の(判断能力という意味においての)スピードは強みとなっている。バイエルン・ミュンヘンは基本的に高いラインでプレーするため、DFラインの背後のスペースがリスクとなるが、キミッヒは相手の速攻にも的確に反応できる。さらに、ポジショニングと読みの鋭さにより、空中戦や1対1の場面でも落ち着いた対応を披露。チームの採用する戦術や対戦相手のレベルに左右される部分も大きいとはいえ、彼がセンターバックとしても起用可能であるという事実は、何よりもその柔軟性の高さを物語っているといえるだろう。
リーダーシップとメンタリティ
キミッヒは単に技術的に優れた選手というだけではなく、リーダーシップとメンタリティの面でも非常に優れている。彼は試合中、常に周囲に指示を出すことで、チーム全体をまとめる役割を遂行。また、どんな状況でも全力を尽くし、決して諦めない姿勢がチームメイトや監督から高く評価されている。
バイエルン・ミュンヘンでもドイツ代表でも、キミッヒの存在感は非常に大きい。勝利への強い執念を持ち、常に自分自身を向上させようとする彼の姿勢が、他の選手にも良い影響を与えているようだ。
プレー動画
まとめ
ヨシュア・キミッヒは、現代サッカーにおける最も知的な選手の一人であり、そのプレースタイルは非常にバランスが取れている。彼のビルドアップ能力、タイミングの良い攻撃参加、そして堅実な守備力は多くのポジションで活用され、チームに多大な貢献をしている。また、その戦術的柔軟性とサッカーにおける知性は、彼をワールドクラスの選手として際立たせている最も重要な要素といっても過言ではないだろう。歳を重ね、円熟味を増したキミッヒのプレーにはこれからも目が離せない。