フィルジル・ファン・ダイクのプレースタイルを徹底解説:知性と効率性を極めしディフェンスリーダー

選手紹介

フィルジル・ファン・ダイクは、現代サッカーにおいて最も完成度の高いセンターバックの一人として広く認識されている。プレミアリーグで長らく活躍し、オランダ代表でもキャプテンとしてチームを牽引。今回はそんなファン・ダイクについて紹介していきたい。

基本情報・成績

生年月日1991/07/08
国籍オランダ
身長195cm
ポジションDF
利き足

キャリア初期

ファン・ダイクは、地元クラブWDS’19でサッカーを始め、ウィレムIIのユースアカデミーに入団した。しかし、ウィレムIIではトップチーム昇格を果たせず、2010年にフローニンゲンへ移籍する。フローニンゲンでは守備的中盤からセンターバックへとポジションを変更し、チームで着実に成長。彼のプロデビューは2011年5月1日のADOデン・ハーグ戦であり、その後、同年5月29日の試合ではプロ初ゴールを挙げた。

2013年、ファン・ダイクはスコットランドのセルティックに移籍し、2年間でスコティッシュ・プレミアシップ優勝、スコティッシュ・リーグカップ優勝を含む複数のタイトルを獲得。また、2シーズン連続でPFAスコットランド年間最優秀チームに選ばれ、スコットランドの舞台でその実力を示した。

プレミアリーグでの成功

2015年9月、ファン・ダイクはイングランド・プレミアリーグのサウサンプトンに移籍し、プレミアリーグでもその存在感を示す。2016年にはサウサンプトンのキャプテンに任命され、守備の要としてチームを支えた。サウサンプトンでの活躍により、リヴァプールを含む複数のクラブから関心を集め、2018年1月に当時の世界最高額である7500万ポンドの移籍金でリヴァプールに移籍した。

リヴァプール移籍後、ファン・ダイクはチームの守備を劇的に改善し、クラブのUEFAチャンピオンズリーグ連覇に貢献。2018-2019シーズンにはPFA年間最優秀選手賞やUEFA年間最優秀選手賞を受賞し、また2019年のバロンドールではリオネル・メッシに次いで2位にランクインした。リヴァプールでは、2019-2020シーズンに30年ぶりのリーグ優勝を果たし、クラブ史上初のFIFAクラブワールドカップ優勝にも貢献している。

彼は度重なる怪我に苦しむこともあったが、その復帰後もリヴァプールの主力として活躍し続け、クラブと代表の両方でその影響力を発揮している。また、2023年にはリヴァプールのキャプテンにも正式に任命された。

オランダ代表キャリア

ファン・ダイクはオランダ代表としても重要な役割を果たしており、2015年に代表デビュー。2018年には代表キャプテンに任命され、2019年のUEFAネーションズリーグではチームを決勝に導いた。また2022年FIFAワールドカップでは、キャプテンとしてオランダをベスト8まで導いている。

プレースタイル

ここからは、ファン・ダイクのプレースタイルについて詳しく見ていきたい。彼のプレースタイルは、そのフィジカル的な強さ卓越した守備技術リーダーシップ、そして精密なパス能力を中心に構成されている。彼はリヴァプールの守備の要として、そしてオランダ代表のキャプテンとしてチームの後方を支える存在であり、試合中に多くの重要な役割を果たしている。

ポジショニングとインテリジェンス

ファン・ダイクのプレーの中心にあるのは、その卓越したポジショニングとインテリジェンスである。彼は相手の攻撃を予測する能力に極めて優れており、危険な場面においてもほとんどポジションを外されることがない。多くの場合、まずは自身が埋めるべきスペースをしっかりと管理しつつ、相手ボールホルダーが採りうる選択肢(ドリブル・パス・シュート)を把握。そして、そのどれにも対応可能となる絶妙なポジションを取る。これにより相手の判断を遅らせ、危険な状況を未然に防ぐのだ

一方、直接的なボール奪取の際にも彼は冷静かつ計算されたプレーを展開し、最小限のリスクを伴うディフェンスを好む傾向が強い。敢えて特定のスペースを空けることで相手ボールホルダーをそこへ誘導し、プレーの選択肢・方向性を限定。そして狙い通りのプレーを相手が仕掛けてきたタイミングでギアを上げ、一気に距離を詰めてボールを奪う。このようにして、彼は相手を確実に制圧しつつもファールを犯すことなく守備を完了させるのだ

圧倒的な身体能力

ファン・ダイクの持つ圧倒的な身体能力も特筆すべきであり、先に触れたインテリジェンスと合わせて彼を特別な選手たらしめている。

まずはカバーリング能力について。ファン・ダイクの全盛期の最高速度は34.5km/hに達しており、前後左右のスペースを広範囲かつ迅速にカバーすることが可能だ。また、瞬間的な加速力では小柄な選手にこそ劣るが、体格を考慮すれば正に驚異的といえる敏捷性を持っており、1対1の守備でも優位に立つことが多い。たとえトップクラスのスピードを誇る選手とのマッチアップにおいても決して引けを取ることなく、冷静な対応と身体能力で相手の前進を阻止する。彼がプレミアリーグやチャンピオンズリーグの舞台で傑出したパフォーマンスを見せる要因の一つは、正にこの身体能力にあるといえるだろう。

ファン・ダイクの身体能力に関するもう一つの長所は、空中戦の強さである。195cmという高身長を活かすことでほとんどのヘディングデュエルを制し、セットプレー時には攻撃でも存在感を発揮。また、先述の通り彼はポジショニングも優れているため、余裕を持った状態で相手とのデュエルに勝利することも多い。こうした空中戦(ハイボール)の強さや先述のカバーリング能力は、自陣ゴール前での危険な場面を未然に防ぐ上で役立つのみならず、リヴァプールのようにハイライン守備を志向するチームが安定してプレーするために不可欠な要素となっているのだ。

パス能力と攻撃への貢献

守備面で卓越しているだけでなく、ファン・ダイクはボールを持った際にも非常に効率的にプレーするのが特徴的だ。彼のパス成功率は高く、中でもロングパスは非常に正確。彼の得意なプレーの一つとしては、右サイドへと正確なロングパスを通し、トレント・アレクサンダー=アーノルドやモハメド・サラーへとボールを送り込むものが挙げられる。彼のパスは強く、それでいて正確であり、敵陣深くまで一気にボールを送り込むことが可能だ。このように、彼はチームのボールポゼッションに際しても積極的に関与しており、その貢献度はディフェンダーの中でもトップクラスだ。

ただし、彼は他のセンターバックに比べてボールを持つ時間が短い。これは、彼が必要以上にパスを回すことなく迅速に前線へボールを供給し、攻撃を進めたいという姿勢によるものである。チャンスと見るや積極的に前方へとパスを通し、局面を打開しようとする彼のプレースタイルは非常に効率的といえるだろう。

ボールキャリー

ファン・ダイクは、ドリブルでボールを運ぶプレーにおいては冷静かつ慎重である。彼のような大柄な選手が頻繁にボールを持ちすぎると、捕まりやすくなるリスクがあるため、彼はタイミングを見極めてボールを前進させる。そのため、彼のボールキャリーは必要なときにだけ実行され、成功率は非常に高い。また、彼は自分のサイズを活かし、相手に体を預けながらボールを守る技術も持っており、プレッシャーのかかる場面でも余裕を持って対応することが可能だ。特に大怪我を負って以降はボールを持ちすぎることを避け、より守備に専念するようになったが、それでもゲームを前進させる役割は変わらず果たしている。

ウィークポイント

ファン・ダイクのプレースタイルにはほとんど欠点が見られない。しかし強いて挙げれば、物理的に瞬時の反応が必要な場面、具体的にはアジリティの非常に高い選手への対応は比較的苦手なようだ。というのも、彼は大柄ながら敏捷性にも優れた選手ではあるが、それでも極めて俊敏な相手選手の仕掛けに対してやや反応が遅れることがあり、時折スピードに乗ったドリブルでかわされることがある。しかし、彼は全体としてディフェンス時に冷静さを保っており、リカバリースピードも速いため、このような弱点も最小限に抑えることができている。

また、スライディングタックルを避ける傾向が強くなったことで、ファン・ダイクの守備はさらにクリーンになった半面、低く速いクロスに対して足が遅れる場面も見られる。これにより、時折クロスを防ぎきれないことがあるが、それでも彼の守備スタイル全体に大きな影響を与えるほどの問題にはなっていない。

リーダーシップと統率力

ファン・ダイクは、技術的・身体的に優れた選手というだけでなく、リーダーシップも秀逸だ。彼はリヴァプールやオランダ代表において、ディフェンスラインを統率し、常に冷静さを保ちながらチーム全体に安定感をもたらしている。実際のところ、ファンダイクがリヴァプールに加入して以降チームの守備が劇的に改善したのは周知の事実であり、プレミアリーグ優勝やUEFAチャンピオンズリーグ優勝など多くの成功に貢献。彼の冷静な判断と的確な指示による統率は、ディフェンスラインの他の選手たちに自信と確信をもたらすことで、チーム全体の守備パフォーマンス向上に大きく寄与しているのだ

プレー動画

まとめ

フィルジル・ファン・ダイクの完成度は紛れもなく世界トップクラスであり、守備、攻撃、リーダーシップのすべてにおいて高いレベルでプレーしている。彼のポジショニング、空中戦の強さ、正確なパス、そしてフィジカルの強さは、リヴァプールやオランダ代表にとって不可欠な要素だ。彼のプレースタイルは、シンプルで効率的であり、無駄なリスクを取らずに試合をコントロールする能力が光る。その点で、あらゆるディフェンダーがお手本とすべき選手といえるだろう。

タイトルとURLをコピーしました