ジョアン・フェリックスは、ポルトガル代表のアタッカーである。キャリア初期には「史上最高クラスの才能を持つ逸材」と評価されていたが、伸び悩み、当時の評価に見合う選手にはなれていないのが現状だ。この記事ではそんなフェリックスについて紹介していきたい。
基本情報・成績
生年月日 | 1999/11/10 |
国籍 | ポルトガル |
身長 | 181cm |
ポジション | FW |
利き足 | 右 |
キャリア初期
ジョアン・フェリックスは2015年にSLベンフィカのユースチームに加入し、翌シーズンにベンフィカBに昇格。2017年4月のUEFAユースリーグ準決勝でレアル・マドリード相手に2得点を挙げてチームを決勝進出に導いたが、決勝では敗れ準優勝に終わった。2018-19シーズンにベンフィカのトップチームデビューを果たすと、リスボンダービーで劇的な同点弾を記録。するとシーズン途中からレギュラーに定着し、ヨーロッパリーグ準々決勝ではハットトリックを達成。国内リーグでは15得点9アシストを記録し、ベンフィカの2シーズンぶりのリーグ制覇に大きく貢献した。この活躍により、恐るべき才能を持つ新星としての評価を確立した。
アトレティコ・マドリーでの成績
2019-20シーズン、フェリックスはアトレティコ・マドリードに移籍金1億2600万ユーロで加入し、当時の史上4番目に高額な移籍として注目を浴びた。プレシーズンのICCカップでの活躍や、公式戦での得点やアシストにより期待が高まったものの、チーム戦術への適応に苦戦。特に前半戦ではパフォーマンスが不安定で、決定力やクロスの精度に課題を残した。
後半戦では徐々に貢献を見せ、オサスナ戦での複数得点や、リヴァプール戦でのアシストなど、輝く瞬間もあった。しかし、継続的な成果には至らず、怪我の影響もありパフォーマンスが制約された。シーズン通算で公式戦9得点3アシストを記録したが、移籍金に見合う評価には至らず、期待を完全に応えることはできなかった。
続く2020-21シーズン、フェリックスはシーズン序盤こそ攻守両面で卓越したパフォーマンスを発揮し、ラ・リーガ第9節終了時点で6ゴール1アシストを記録。チームの中心選手として活躍し、11月にはラ・リーガ月間MVPにも選出された。
しかし、新型コロナウイルス感染後から調子を落とし、怪我にも悩まされたことで、シーズン中盤以降は安定感を欠いた。それでも、チームがリーグ優勝を果たした終盤には重要な場面での活躍を見せ、最終的に公式戦40試合(23試合先発)で10ゴール5アシストを記録。アトレティコ・マドリード移籍後初の二桁得点を達成した。
その後、2021-22シーズンの前半は不安定な状況が続いたものの、冬の移籍市場以降に大きな成長を見せた。特にリーグ後半戦では重要なゴールやアシストを重ね、チームの攻撃の中心的存在となった。3月には3試合で3ゴール1アシストを記録し、「月間最優秀選手賞」を受賞。最終的にシーズン通算35試合(先発22試合)で10ゴール・5アシストを記録した。
後半戦終盤の負傷によりシーズンを早期に終えることとなったが、その活躍ぶりから「年間最優秀チームプレーヤー賞」を獲得。冬以降のパフォーマンスは「アトレティコ加入以降最高」と評価されるなど、来シーズン以降に向け大きな期待を煽るものだった。
しかしながら2022-23シーズン、フェリックスは監督のディエゴ・シメオネとの関係悪化もあり、ベンチスタートが増えることに。2023年1月にはチェルシーへレンタル移籍することとなった。
チェルシーとバルセロナでのプレー
2022-23シーズン後半戦、加入先のチェルシーにてフェリックスは20試合に出場して4ゴールを記録した。序盤こそ自身の巨大なポテンシャルを示したが、次第にアトレティコ時代から続く課題を露呈させ、チェルシーでも定位置の確保には至らず。シーズン終了後にはアトレティコに復帰し、翌シーズンはバルセロナへレンタル移籍することとなった。
迎えた2023-24シーズン、フェリックスはローン移籍先のバルセロナでその才能を発揮する一方、いくつかの課題も再び浮き彫りになった。デビュー戦でのゴールを始め、攻撃面での直接的な貢献(44試合で10ゴール6アシスト)は及第点だったが、守備参加や判断力の面で批判されることに。攻撃面でもボールを独占しがちなだけでなく、いくつかの試合ではチャンスを逃し、期待に応えられなかった場面も見受けられた。
その後の2024-25シーズン、フェリックスはアトレティコを完全に離れ、チェルシーに完全移籍。契約期間は7年、移籍金は4450万ポンドと報じられ、バルセロナ時代のユニフォーム番号14を再び着用することとなった。
ポルトガル代表キャリア
クラブシーン同様、ジョアン・フェリックスのポルトガル代表におけるキャリアも数々の浮き沈みがあった。2019年のUEFAネイションズリーグ準決勝、スイス戦デビューを果たした彼は、UEFAユーロ2020にて初のメジャー大会に参戦。ベンチスタートが多かったが、ベスト16のベルギー戦では後半に投入され、ヘディングシュートを放つなどいくつかのチャンスを演出。しかし試合の流れを一変させることはできずにチームは敗退し、初めての主要大会は不完全燃焼に終わった。
2022年のFIFAワールドカップでは、グループステージのガーナ戦でゴールを決め、その後ベスト16のスイス戦では2アシストを記録するなど、大会を通じて印象的なプレーを披露。準々決勝のモロッコ戦でも好機を作ったが、ゴールを奪うことはできずにチームは敗退。しかし、個人としては代表でのイメージ向上に繋がる大会となった。
一方、UEFAユーロ2024ではグループステージで出場機会が少なく、3戦目のジョージア戦でようやく先発。その後の準々決勝フランス戦ではPK戦にて失敗。これがチームの敗退に繋がり、SNSでの批判にも直面した。
プレースタイル
ここからは、フェリックスのプレースタイルについて詳しく見ていきたい。彼は主にセカンドストライカーや攻撃的ミッドフィールダーとしてプレーする選手である。また、最前線のストライカーの背後に位置し、自由な動きを許される「フリーロール」の役割でその能力を最大限に発揮する。すなわち、彼のプレーは左右の動きに縛られず、ボールを多く供給される状況で真価を発揮するタイプのものであるといえるだろう。
打開能力
フェリックスの最大の強みは、オン・ザ・ボール時の優れた能力である。柔らかなボールタッチと俊敏な動きを活かし、相手ディフェンダーを巧みに抜き去るプレーが特徴的である。彼はワンプレーごとに長時間ボールを保持するタイプではないものの、短い時間で効果的に相手を振り切る能力を持ち、その後に味方へのチャンスメイクや自らのフィニッシュに持ち込むことが可能だ。
また、彼のシュート技術も注目に値する。力強いシュートだけでなくチップシュートやボレーといった洗練されたフィニッシュを選択し、ゴールへと結びつけるのだ。
創造性
フェリックスのクリエイティビティは、そのプレースタイルを際立たせる重要な要素である。彼はワンタッチパスやヒールパスを駆使し、攻撃のテンポを崩さずスムーズに繋ぐプレーが得意だ。その卓越したサッカーセンスは、攻撃時の即時的な状況判断やスキル発揮において顕著に現れやすく、意外なプレーで局面を打開していく。このような創造的な能力により、フェリックスは攻撃の中心的存在として君臨することができるのだ。
フィジカル能力
先述の通り、ハイレベルなテクニックとクリエイティビティを兼備するフェリックスのプレーには華があるが、そうした能力の継続的な発揮を阻むいくつかの大きな課題が存在する。第一に挙げられるのが、フィジカル面の弱さである。
フェリックスはトップレベルで要求されるパワーとスタミナが不足しており、試合の後半になるとプレーの精度や活動量が目に見えて低下する。また、スピードや爆発力にも欠けているため、純粋なウィンガーとしての起用には向いていない。それでいてボディコンタクトに弱くボールを失いやすい傾向もあり、中央ミッドフィールダーや最前線のストライカーとして起用するのも難しい選手だ。したがって、「相手チーム全体の活動量が低下し始める後半途中に万全のフェリックスを投入し、ポジションを制限せず自由にボールに触らせる」というのが現状最も有効な起用法だという見方が強い。
視野の狭さ
また、視野の狭さもフェリックスの課題である。ボール保持時のプレーに集中するあまり、全体の状況を把握したプレーがあまりできていない。その結果、攻撃ルートを効果的に見出す能力に欠けており、近くの味方へのチャンスメイクや短距離でのリンクアッププレーは得意であっても、ゲームをコントロールしたりより広いスペースに展開したりするようなプレーは乏しい。また、視野の狭さは判断力をも鈍らせ、これが攻撃時の生産性の低下(得点力不足)につながっている。
守備能力
フェリックスは守備時の貢献度の低さもウィークポイントの一つである。先述したスタミナやフィジカルの問題が影響し、前線からのプレスに効果的に関与できていない。現代サッカーにおいて求められる守備的な役割を十分に果たせていない点が、彼のプレースタイルにおける大きな弱点である。この点は、アトレティコ・マドリードでのディエゴ・シメオネ監督の指導下でも大して改善されなかった。
得点能力
最後に、得点力の不足も課題として挙げられるだろう。4大リーグ移籍後は特に得点力の低下が指摘されており、ゴールを生み出すプロセスに比べて最終的なフィニッシュの成功率が低い。この点は、アトレティコ、チェルシー、バルセロナのどこにいたときでも(一時期を除いて)批判されている部分であり、彼の大きな課題となっている。
プレー動画
まとめ
ジョアン・フェリックスは、優れた攻撃センスとクリエイティビティを持つ選手である一方で、フィジカルや守備時の影響力、視野の狭さ、そして得点力の不足が彼の継続的な成長・活躍を妨げる要因となっている。もしもこれらの課題を克服することができれば、オールラウンドな攻撃的プレーヤーとして覚醒するはずだ。一方、このまま彼の弱点が改善されない場合、その潜在能力を完全に発揮することは難しくなるだろう。今後のキャリアにおいて、フェリックスがどのようにこれらの課題を克服し、新たなステージで飛躍を遂げるかが注目されるところだ。